勘のいい奴っていうのは偶にいる。
こちらの心を予め読んでいたかのように振る舞ったり、起こる出来事を事前に知っていたかのように対処する。
まさにそんな超能力みたいな力を発揮する奴が、俺がいま教育係を受け持っている職場の新人くんだった。新人くんはこちらが指導する余地もなく仕事の仕方も完璧で、俺は自分の存在意義を一瞬見失いそうになりかけた。そんな精神状態のせいもあってか、俺はつい新人くんに「君、いったい何者?」と、そんな冗談のような質問を本気でしてしまう。
「あ、実は自分、未来から来ました」
しかし返ってきた新人くんの答えは、俺の質問なんか霞むほどに突飛なものだった。
「・・・・・・え、マジで?」
「はい、マジです」
目一杯に両瞳を丸くさせた俺に、「未来って言ってもほんの五十年後くらいからですけどね」と、新人くんは呑気に笑う。
「え、でも、何で君この会社で働いてんの?」
率直な疑問だった。
「実は僕、本当は今からその五十年くらい後にこの会社に入社したんですけど、やっと仕事にも慣れてきた頃、大きなミスをやらかしちゃいまして・・・・・・」
この会社の社員でやらかしたミスと聞いて、俺はまさかと考える。
「まだ試作段階だったタイムマシーン、間違って動かしちゃったんですよね」
それを聞いた瞬間、俺の中であることが閃いた。それは、会社の命運を左右するほどの閃きだった。
「いやー、未来に帰るのが怖くて。だったら運良く同じ会社に入れたし、このまま働いちゃおうかなって」
彼はその事実に気付いていないようだが、俺はこの会社に自分の人生を捧げることをひそかに決意する。
彼がいればいま我が社が壁にぶち当たっているタイムマシーン事業の道が開ける。なんせ彼は我が社のタイムマシーンで過去に来た実績を持ち、きっと時間を渡ることに成功した実物までもを、所持しているのだろうから。
【未来】
6/18/2023, 7:56:47 AM