鷹見津

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心の健康

 先輩がすやすやと昼寝をしていたのでブランケットをかけた。オカルト部の部室は、教室のある校舎からは遠い代わりに色々なものが置かれている。学園からの支給品だよ、と先輩は言っていた。本当にそうなのだろうかと俺は少し思っている。先輩が勝手に買い揃えているような気がしてならない。
 今日は先輩も寝ているし、寮に帰ってしまおうかとも思ったが、このまま放置するのも気が引けた。俺は椅子に腰掛けて、図書館から借りてきた本を読む。紙の捲れる音が室内に響いた。本に集中したいのに、なんとなく落ち着かない。先輩は、今年受験生だ。つまり、来年にはもう学園にいない。それが寂しいと直接言うのは、気恥ずかしいなと思ってから、俺は随分と先輩と仲良くなったことに気がつく。
 テンションが高くて、厄介事に自分から首を突っ込んでいく先輩は、けれども、そばにいると楽しい。同級生と喋るのとも少し違うし、妙に気が楽だった。高校になり、勉強も人間関係もガラリと変わったばかりの俺にとって先輩は癒やしでもあったのだ。トラブルに巻き込まれているので認めにくいが、事実だった。
「あと一年も一緒にいられないのか」
 先輩が起きていれば、絶対に言えないようなことを口にしてみると心臓が痛むような感覚に陥る。残り僅かな時間を大事にすべきだな、と思いながら俺は文字を終えなくなった本を大人しく閉じた。先輩が起きたら、何で遊ぶかを考えた方が、落ち着けそうな日もある。

8/14/2023, 9:40:44 AM