幸せとは
真っ白な紙を折りたたむ。丁寧に、真っ直ぐと。幾度か繰り返したあと、窓を開けた。少しひんやりとした空にそっと投げた。
テイクオフ直後、急下降した。ブロック塀にぶつかりそうになったが、なんとか立て直す。見慣れた家々をすり抜けて、街へ進む。
歩道橋をくぐり、学校の屋上を飛び越えた。しばらくコンクリートの景色を進むと、突如、横風を受けた。ビル風だ。強く厳しい衝撃。何度目かの不自由な風を、翼でコントロールする。駅を通り、街を過ぎた。前方の山を超えると海が見えてくる。
青だ。空も海も。海風に逆らい、洋上に出た。海面に影が見える。イルカの群れだ。こちらを追いかけるように泳いでいる。くるっと旋回で挨拶し、尖った先端を上に向けた。
一直線に速度を上げる。全速力で飛び上がる。あっという間に青を離れた。満月を一周し、太陽の方角へ針路を取る。無重力の海を走る。金星で花火を見て、水星のクリスマスツリーでUターンした。
長い旅路を終え、家に戻ってきた。純白だった機体は、どす黒く変色していた。翼も折れ、全身に亀裂が入っている。
もう飛べない紙飛行機を、ガラスの箱に入れて窓辺に置いた。箱の中は、いつも光で輝いている。
1/4/2024, 11:02:34 PM