NoName

Open App

1つだけ


「ひとつだけあげる」
それがあの子の口癖だった。特にほしいと言ったわけでもないのに、クッキーも飴もなんでもひとつだけくれるのだ。

あるときは限定品のキーホルダーをくれようとした。それはあの子に好意を持っている隣のクラスの男子があの子にくれたものだったから断ったのだれど。ていうかもとからひとつしかないものだし。

とにかくあの子は僕になにかひとつあげなくてはいけないと考えてるみたいだった。僕らは家が隣の幼馴染…というわけでもなく、高校2年のときに初めて同じクラスになり、席が近いわけでもなく、同じ委員会で活動したこともないただのクラスメートだった。

そんな僕になぜあの子はひとつだけ物をくれたのだろう。
自覚はないが物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
今のなっては理由はわからないけれど、この頃よくあの子のことをよく思い出す。

僕のとなりをよちよち歩く、この世にやってきてほんの数年の小さな人間が、自分のものをひとつ僕にくれようとするときに。

4/3/2024, 11:52:08 AM