名無しの夜

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 明日はお休み。
 しかも誕生日なのよね、と浮かれて。

 前から憧れていたお洒落なケーキ屋さんでカットケーキを幾つか買ってきたの。

 冷蔵庫に入れて。

 夜はいつも通り、サラダチキンとたっぷりお野菜のスープ。

 お肌のお手入れも念入りに。

 さ、今夜は早目に寝て。

 朝になったらゆっくりウォーキング行って、シャワーして。

 ランチ兼ねた贅沢モーニングしながらタブレットで映画見つつ、ケーキ食べるの。


 素敵な休日と誕生日になりそう!


 ……と思っていたのに。


 どうして、真夜中に目が覚めちゃったの私!

 日が明けたからもう誕生日よね、と冷蔵庫に目が向いちゃって、冷蔵庫の中のケーキの箱まで見える気がしちゃうのは何故なのよ!


 ダメよ、我慢するの!

 私の中の天使と悪魔も——


 ……え、何か仲良くテーブルについてフォーク両手に持ってるんですけど!?

 真夜中にケーキなんか食べたら美容に大敵、どう考えても悪な行為じゃない!

 どうして天使まで『ああもう待ちきれない早く食べましょ』的な顔をしているのよ、おかしいでしょ!

 悪魔は悪魔で、『こうして葛藤して待つことにより手は止まらなくなるのだ』と言わんばかりにお皿を何枚もテーブルに並べているし!

 そんな何十枚分もさすがに買ってないわよ!

 真夜中だから追加で買いに行ったところで買えないのが救いよね——って、そうじゃない!


『でも、食べないことが善ではありませんよね。自らの心に素直になることは、時に心の正しさの体現でもありますから』

『そうそう。自らの欲求に素直に従う至福感は何にも代え難い』


 ……ああぁ、誰も私の良心の味方はいないじゃない。

 勝てっこないわ、こんな誘惑……!!



 ——善悪。

 善だろうが悪だろうが、の意から。
 『いずれにせよ。また、とにもかくにも。是が非でも。』
 (go○辞書より)


4/27/2024, 5:17:54 AM