秋月

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「なぁルシアン。もう俺に、優しくするなよ」
「な、なんで……?」
「この間の、お前が『兄ちゃんも来なよ! 絶対楽しいよ!』って連れてったパーティーで、他のやつらに俺がなんて言われてたか知ってるか?」
『また来たよ』『毎度毎度律儀に来ちゃってさ、学ばないの?』『早く帰れっての』
「……なぁ、わかるか? 惨めなんだよ。何でも持ってる、誰にでも愛されるお前に優しくされるのは。お前はいいやつで、善人だ。お前より劣ってる俺なんかを慕い、好いているのが嫌でもわかる。だから、お前が俺を思ってくれるなら。どうか俺と関わらないでくれ」
「わ、わかんないよ……。どうして? 俺、兄ちゃんといたいよ」
「ま、そうだよな。お前がそう言うのはわかってたさ。だから、明日一日だけでいい。起きても、俺の部屋を覗くな。学校でも俺の事を探すな。帰って俺がいなくても探そうとするな。一日だけでいいんだ。頼むよ」
「……わ、かった」
「ありがとな」



「……そう言って部屋に消えた兄ちゃんを、引き留めればよかったって、今でも思ってる。関わらないって約束した日の次の日。一日だけって言ってたから、またいつもみたいにおはようって、言えると思ってたのに。……兄ちゃんの部屋の、ドアが重かったの。頑張って押せば入れそうだったけど、そんなに入ってほしくなかったんだ、って思ったら無理に開けない方がいい気がして窓から様子を見に行ったの。そしたら、さぁ。ドアノブで、首、吊ってた。……ごめんね、兄ちゃん。望んでないし、それで許してくれるとも思わないけど……。兄ちゃんに酷い事言ったりしたやつは、苦しめておくから。ゆっくり眠ってね」

5/3/2023, 8:31:25 AM