お題:一筋の光
手を伸ばす。こちらを貫く一筋の光へと。伸ばして伸ばして、ようやく掴んだ! と、鼓動が跳ねれば
私はベッドの上で目を見開く。
乱れた呼吸を整えながら、憎いほど眩しい朝日に目を細め、ずり落ちたシーツを引っ張り上げる。
「朝は緊張しますか」と微笑む貴方の声でようやくここが現実なのだと安堵する。
痛む頭を抑え乱雑に髪を掻き上げ、ただひたすらに己の呼吸へと意識を向けた。溢れ出る涙を拭い鼻水を啜りながら、私は、今度こそ本当に項垂れてしまった。
頭を撫でながら「偉いですね、あなたはよく頑張っています。えらい、えらい」と。それが余計に辛く苦しく、暗闇に隠れてしまいたかった。光の見えぬ奥底へと逃げてしまいたくなった。
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一筋の光。貴方にとって光とは何だろうか。おこがましいことを言いたい。口にしてしまえばどれほど楽になれるだろう。宙ぶらりんな心臓ごと血を流してしまえれば、どれほど。
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マジックアワーを背景に貴方の横顔を見られるとはなんと贅沢な事だろう。胸いっぱいに空気を吸っても吐き足りない感嘆の溜息。
風が巻き起こり、髪を揺らがせ、耳元で髪を抑える姿は儚げに見える。貴方は「心地良いですね」と微笑を浮かべて言った。冷えたそよ風が擦り傷を作っているかのように頬が熱かった。
カチカチと街灯が光を灯し、辺りを照らし始め、くしゃみの音を聞き、慌てて手を取った。貴方は一瞬目を見開いた後、こちらが声をかけるより先に「帰りましょうか」と笑って揺れる。揺れた髪の隙間から一番星がチカチカとまたたいた。
今度は貴方がこちらの手を取り、そのまま歩き出す。
一筋の光が心臓を射抜いた。貴方という存在か、このあたたかな感情か、この瞬間か。おこがましいことを言いたい。その全てだろう。
11/5/2023, 3:16:10 PM