テリー

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母はあまり私を褒めなかった。
褒め下手だったのか、抱き締めたり頭を撫でることはあまりなかった。
代わりに小言が多かった。私は几帳面では無かったから、ほぼ毎日小さなことで叱られていた。

あれは忘れもしない。小学3年生のとき。
絵を描くのが好きだった私は、祖父母からクレヨンをプレゼントされた。外国製の匂いのきつい、100色入りのもの。
その中の群青色が私は大好きだった。弟に取られまいと、こっそりと持ち歩くほど、その色が大好きだった。

ある時、図工の時間に先生が言った。
「魚を描きましょう。好きな色で、好きな模様で」と。
私は胸が高鳴った。あの群青色を自慢できる絶好のチャンスだと。
皆が12色クレヨンで色を塗る中、私は無我夢中で群青色で魚を塗った。模様なんてものはなく、大好きな群青色ただ一色で。
仕上がった私の魚は、それはもう美しい群青色だった。誇らしかった。

だが私はすぐに後悔した。授業参観があったのだ。
父兄たちが掲示板に貼られた子供達の作品を見た。皆、ピンクやオレンジとカラフルな魚を泳がせていた。
そんな中、黒黒しく光る群青色の魚が一匹だけ泳いでいた。
一匹だけ浮いていた。

授業参観後、私は母の元に行くのが恥ずかしかった。私だけ真っ青な魚だったからだ。
母は私が指差した魚を見て、困ったように笑った。
「いいじゃん。一番目立ってて。探しやすいよ」

それ以上に褒められたこともあったはず。なのに今でも鮮やかにその日のことを覚えている。
あの時「もっとカラフルに塗ればよかったのに」なんて言われていたら、きっと私はデザインの道には進まなかっただろう。
この日のことはきっと忘れない。

≪忘れたくても忘れられない≫

10/17/2024, 1:30:08 PM