直哉が戦慄くのが見えた。
「…ほんまに、わかっとるんか椋くん。
『ソレ』を捨てたら、今の力も地位も消えるんよ?もう二度と、あちら側には、」
無くすのは椋なのに、悲痛な顔をしているのは直哉の方で。
椋は首をかしげる。
「そうですね、今の『コレ』があったから、ぼくは『完璧な僕』を演じてこれた。あちら側が見える位置にも来られた。
でもぼくはそれよりも、明日ハンバーガーが食べたい」
「は…?」
椋は、晴れやかな笑顔で言葉を続ける。
「人目を気にせず安いハンバーガーにかじりつきたい。
口の周りにソースが付いてる『不完全な僕』がいい。
完璧で完成された未来より、ゲラゲラ笑いながらポテトを頬張ってお喋りしても赦される明日がほしい。」
「だから、さよならをするんです」
「まっ…!!」
静止の声を無視して、椋は整った蝶々結びの『縁』を、ほどいた。
【不完全な僕】
8/31/2024, 12:49:59 PM