「梨」
しゃくしゃくという音と共に口いっぱいに甘い果汁が広がっていく。電球の光を受けて瑞々しく輝くその果実は秋の訪れを知らせてくれる。
「もう秋なんだね。ちょっと前まではスイカだったのに。」
閉ざされた部屋。テレビもラジオもない無機質な部屋には、白いベッドだけが存在を主張していた。
部屋には窓もなく、季節を教えてくれるのはいつも果物だった。
「梨って木になってるって聞いたけどどんな形なんだろ。来年の秋には外に出て確かめてみたいなぁ」
来年も再来年もその先も、無理であろうことはわかっている。
けれど、どうしても希望を捨てることができなかった。
10/14/2025, 8:22:33 PM