【世界線管理局 収蔵品
『透明缶』 シリーズ②
心の境界線を透かすジュース 初期ロット】
見た目としてはごく普通の缶入り飲料。
いわゆる「透明缶」シリーズのうちのひとつ。
透明な飲料水でも、クリア素材の缶でもない。
滅亡した某世界が、まさしく滅亡する理由となった間接的な理由であり、兵器転用可能な日用品。
摂取すると、10〜30分の間、缶に記載された能力をひとつ、自身に付与する。
なお「心の境界線を透かすジュース」初期ロットは
相手の心の境界線を「透かす」のではなく
自分の境界線を「崩してしまう」という
重大な欠陥が発覚・多発したため
数日で全部その手の権力者に買い占められた
<<数日で全部その手の権力者に買い占められた>>
――――――
「ここ」ではないどこか別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは世界と世界を繋ぐ航路を敷設したり、
航路の保守点検や管理整備をしたり、
滅亡した世界との航路を封鎖して、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムを回収したり。
世界と世界に関する様々な仕事をしておりました。
滅亡世界からこぼれ落ちるアイテムは意外と多く存在しておって、専用部署もそこそこ広大。
収蔵部収蔵課が、主に頑張っています。
その日も収蔵部の管理局員・ドワーフホトのもとに、飲料タイプの収蔵品が届きました。
今回ドワーフホトのもとに届いたのは、
前回のおはなしと同じ世界から流れ着いた、透明な羽根を授ける「透明缶」の親戚。
なんでも、飲んだ者の心の境界線を、10分から30分だけ、崩してしまうらしいのです
が、
どうもそのジュースの効果、
その世界に住んでいた生命体にしか
サッパリ、ちっとも、少しも効果が無いようで。
というのもこのジュースの「心の境界線を崩す」とされる有効成分はアルコールだったのです。
要するにただのお酒だったのでした。
『アルコール度数、出たよぉ!』
自分の収蔵庫に透明缶を受け入れたドワーフホトの、仕事の手伝いをしているデジタル生命体が、
収蔵庫のメインモニターにフワリ、あらわれて、ドワーフホトに数値を示しました。
『微アルも微アル。この、心の境界線をアルコールで崩しちゃうっていうお酒の度数は、
まさかの、たったの0.3%だったよー!』
「0.3って、どれくらいかなぁ」
モニターの前では、ドワーフホトと一緒に収蔵品の情報を記録しておった魂人形その1が、その2だかその3だかに言いました。
「なんかねぇ、0.5とか7とかは、ビールに多いっぽいけど、0.3は多分希少価値ぃ」
その2だかその3だかが、即座に手元の端末で調べて、そして情報を共有します。
「んんん。味としてはぁ、ホワイトサワー」
おやおや、魂人形その5あたりがサボっています。
「サボってないもぉん。自分の体を使って、害がないか、記録収集してるんだもーん。
てことで、もう1本開けるね〜」
「つまりぃ……この、飲んだ人の、心の境界線を崩しちゃうっていうジュース、もといお酒で、
このお酒が生まれた世界、滅んじゃったんだねぇ」
世界いろいろ、滅亡原因いろいろ。
ドワーフホトは、唇を真一文字に結びました。
「うぅーん。ホントに、有効成分、アルコール?
実は、他にも何か、成分あるんじゃなーいぃ?」
「ないねー」
「こっちも検出ゼロー」
「こっちも反応ナーシぃ」
『ボクも以下どーぶん』
「もちょっと飲まないと分かんなぁい」
「そっかぁ。 そっかぁ……」
心の境界線を崩しちゃうお酒って、
説明だけ聞くと、まぁまぁ、怖いねぇ。
ドワーフホトは缶をとって、まじまじと観察して、
翻訳グラスで文字を確認しながら言いました。
結局は、正体は、
微アルも微アル、ただのお酒だったのでした。
それが、「その」世界では、政敵の飲み物に仕込まれて、敵国の指導者の飲み物に仕込まれて、
その世界を、間接的に荒らしたのでした。
「微アルなのにねー……」
世界ひとつを間接的に滅ぼしたお酒を5杯くらい飲んでおった魂人形は、
良い気持ちで、上機嫌で、心の境界線を少しだけ、
ほんの少しだけ、柔らかくしておったとさ。
11/10/2025, 5:28:20 AM