あの人の走りはまるで風だった。雲を払い、地に光を与える力強い風。けれどその風はどうしてか、いつも辛そうに眉を歪めて走る。
あの人は毎日誰よりも早くグラウンドに来て、走っている。辛そうに眉を歪めて。
グラウンドから教室に戻っても、電子端末を見つめ、眉間にしわを寄せている。クラスメイトたちが話しかけるのを躊躇っているけど、本人はそんなことよりも端末の中のニュースに夢中だ。
『天才少年、男子高校生新記録!』
踊る文字は彼が走っても走っても追いつけない選手だった。
誰よりも速くて、誰よりも努力している彼は、もっとずっと速い天才に、勝とうとして歯を食いしばる。今も、頭を振って、椅子に座って脛のトレーニングを始めた。教室の片隅で自分と、あの天才と、戦っていた。
僕にとっては、彼の走りが誰よりもずっと綺麗で速いのに。
どうか君が、またあの頃のように誰よりもずっと走るのが好きでたまらないって顔で走ってくれたらと、小さく祈る。
4/9/2023, 11:42:18 PM