鈍と錫

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 目を瞑り、深く息を吸う。情けないな。自分で決めた事なのに、足が震えてる。前奏が流れ始めた。もう逃げられない。深く吸った息を吐く。流れた音を聴きながら、自分の心の中に集中する。大丈夫。ここからは僕の舞台だ。頭に浮かぶ歌詞をひとつひとつ大事になぞっていく。喉を大きく開いて腹の底から声を出すんだ。遠く、遠くに届くように。全身を震わせ、泣き出しそうになるのも全部歌に変えて。全部、全部…。
 まだ余韻の残る体育館の中、拍手が聞こえてきた。いつの間に曲は終わっていた。一瞬だった。夢だったかもしれないなんて思ってしまうほどに。だけど、身体に残った熱と、有難く受け取った称賛の言葉が、それが夢でなかったことを物語っていた。正直、緊張であまり覚えていない。本当に情けない話だ。何処かで行われた、よくある文化祭の一演目の話。

3/19/2024, 1:38:26 PM