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飛べない翼

あるところに、翼を持った少女がおりました。

汚れのない純白で美しい翼は見るものを魅了しました。

誰もが少女の翼を羨みます。

あんな翼があったら、どんなに気持ちよく飛べるだろうか、と。

しかし、誰も少女が飛ぶ姿を見たことがありませんでした。

いつも丘の上で佇んでいるだけ。

彼らは知りませんでした。

少女のその翼が飛ぶための力を持っていないことを。

そうです。

少女は飛ぶことができませんでした。

翼はただの飾りに過ぎませんでした。



あるところにも、翼を持った少女がおりました。

黒く汚れた傷だらけの翼。

しかし、ボロボロの翼を少女は決して恥には思いません。

それは何度も何度も空へ飛び立ったからです。

そうです。

少女は自分の翼で飛ぶ力を持っていました。

翼は少女をまだ見ぬ世界へと連れていってくれましたーーー。




少女は飛べませんでした。

勇気がなかったから。

本当はいつだって飛べるのです。

しかし、はじめの一歩を踏み出す勇気を少女は持てませんでした。

不安、緊張、恐怖。

それらを打ち砕く勇気が。

だから、ある意味ではいつまでも美しい翼を保っていられます。



少女は飛べました。

彼女には勇気があったから。

広い世界へ飛んでゆく勇気を少女は持っていました。

失敗、挫折、苦痛。

上手くいかない飛行を、何度も何度も繰り返して、空へ飛びました。

ボロボロの翼は、勇気の証ですーーー。




あるところに、翼を持った少女たちがおりました。

少女の視線の先には、もう一人の少女が手を伸ばしていました。

丘の上に佇むだけの少女はもういません。

飛べない翼に勇気を。

私の心に勇気を。

少女たちは広い空へ翔けてゆきましたとさ。   


                      おしまい。



11/12/2022, 10:28:29 AM