私と君はわかりあえない。
それはわかっていたことだった。
生きるスピードが違うのだ。
私と君が見据えている方角に寸分の狂いはないはずなのに、ときどき私を見つめるみずみずしい瞳の、その焦点はいつまでもあわない。
悔しさ、恨めしさ、眠っていた感情を揺さぶるすべてを私たちはぶつけ合えるのに、肉体は虚ろのままで震えることすらできないでいる。
私たちは刻々と、規則正しくずれている。
時計の針が重なってまた過ぎていくように。私は君には追いつけない。
でも私は、昔からたった一人しか愛せないのだ。1000年前の人間だったら、私はそのたった一人に殺されてもかまわないとすら思える。その時君は私を私だと知らずに命を奪う。
薄ら冷たい私の死体が君の瞳に映るとき、私たちは初めて同じ時を刻める。それくらい鮮烈な何かを君との間に予感している。
私と君との針がいつか重なりあう、そのひとときにだけ、ただ息をしていたい。
『時計の針が重なって』
9/25/2025, 9:58:58 AM