《子供のように》
あ、寝てる。
私が外出から戻ると、彼が執務室のソファで横になっていた。
ここのところ忙しいみたいだしね。無理はしてほしくないけど、今は頑張り時らしいから。
私はテーブルの上に荷物を置くと、そっと音を立てないように彼のそばに近付いた。
いつもの仮眠と違って、眠りが深いみたい。私に気付かずにすうすう寝息を立てている。
顔が少しこわばってるかな。しんどいんだろうな。
帝国の復興のために、それまで未経験だった政務にしっかり取り組んでるんだもの。
気疲れも多いよね。
私は彼のそばにしゃがんで、頭を静かに撫でてみた。
あ、眉間のシワが取れた。
そのまま、するすると頭を撫で続ける。
彼の顔に掛かっている、男性としては少し長めの髪をそっと避ける。
本当に綺麗な、お母様似の顔。
意思の強い目ときりりと閉じた口元は、お父様似。
そのお二人から生まれた、本当に愛おしいあなた。
そんな想いを抱きつつ頭を撫でていると、彼の表情はすっかり緩んでいた。
今は、幸せそうな顔で眠ってる。
よかった。
後はこのまま、しっかりと疲れを取ってね。
これ以上はぐっすり眠る邪魔になるかなと、彼の頭を撫でる手を止めた。
その手を下げようとしたら、彼の瞼がうっすらと開いた。
あ、起こしちゃったかな。悪いことしちゃった。
彼の眠りの邪魔をしたかと不安になると、彼が半開きの目のままで微笑んで私に呟いた。
「ねえ…もっと、撫でて…」
その口調は普段のハキハキとした話し方ではなく、すっかり気が抜けてホワホワしていて。
半分開いた目のまま私に向けた微笑みは、ふにゃりと緩んでいて。
か、可愛いー! 甘えんぼうモード!
私はそんな彼に、全身が沸騰しそうになった。
か、可愛過ぎる。
多分今の私、顔中真っ赤だ。破壊力が凄過ぎる。
こんな無防備な顔でお願いされたら、断れるわけがありません。
人前では礼節を守り、自分を律している彼。
幼い頃も家族に疎まれ、気軽に甘えられる環境になかった彼。
普段は絶対に見ることの出来ない子供のような仕草は、そんな彼の本音を垣間見たよう。
私でよければ、いつでも頭を撫でるから。
そう想いつつ、私はぐっすりと眠る彼の頭を撫で続けた。
しばらく経って、目を覚ました彼。
夢だと思っていた頭を撫でられている感触が本物だと知って、その時の言動を思い出して物凄く動揺していました。
私は絶対、忘れませんからね?
10/13/2024, 1:59:07 PM