霜月 朔(創作)

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木漏れ日



貴方が木漏れ日が好きだと答えたので、
私は貴方を殺します。


暗く醜い世の中で、
誰にも気付かれる事なく、
絶望の汚泥に沈む私に、
貴方は、優しい手を差し伸べ、
光ある場所に導いてくれました。

私にとって、貴方は、
この世の全てでした。
貴方がいなければ、
私は、この世に存在しないのと、
同じことなのです。
…なのに。

初夏の痛い程眩しい太陽。
木陰から溢れるのは、
煌めく木漏れ日。
貴方は目を細め、
何処か淋しげな笑顔で、
木漏れ日を見つめていました。

その眼差しは、
憧れと愛おしさを混ぜたような、
私に向けられた事のない、
切ない色をしていました。

貴方は、私には隠していましたが、
貴方の、その視線の先を、
私は知っています。
それは、
貴方がずっと見つめていた背中。
そして、その背中もまた、
貴方の視線を渇望していることも。

木漏れ日は、
私には眩し過ぎるのに、
貴方は、木漏れ日に包まれ、
その光の欠片を、
悲しげに、でも、愛おしげに見つめて、
私だけを見てはくれないのです。

私は貴方に尋ねました。
『木漏れ日は好きですか』と。
貴方は私に答えました。
『好きだよ』と。

だから、私は。
貴方の胸に、刃を突き立てました。

刃を突き立てた瞬間、
漸く貴方の目が、
私を真っ直ぐに捉えてくれました。
その一瞬だけで、私は、
この世界に生まれてきた意味を、
知ったのです。

静かに横たわる貴方。
真っ赤に染まる地面。
全てが私のものとなった、
夢のように美しい貴方を、
木漏れ日がキラキラと照らします。


貴方が木漏れ日が好きだと答えたので、
私は貴方を殺しました。


間違っていると、
分かっていました。
ですが、
心が先に貴方を求めて、
私に刃を握らせたのです。

でも、大丈夫です。
もうすぐ私も、
貴方の傍に行きますから。

貴方の心を奪い続けた、
木漏れ日も、あの憎き人影もない、
貴方と私だけの世界で、
永遠に揺蕩いましょう。


5/8/2025, 7:22:47 AM