胡座孝太郎

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カラコロと口の中の飴が歯に当たって音を立てる。
田園風景をひた走る鈍行は僕を含めても片手で足りるほどの乗客しかいない。
目を背けたくなるほどに晴れ晴れと輝く青い空は窓の向こうから僕をぼんやりと眺めている。

君が僕らの街から姿を消してからもう1年が過ぎた。
その間に赤い葉が落ちて、雪が降り、桜が咲いた。
蝉が鳴く度、僕は君の影を探してしまう。
もうここにはいないとわかっているのに。

君が二度と会えない場所に行ってしまったのは大雨で中止になった花火大会の日だった。二人で約束した花火大会。
雨に打たれた道路で、赤く滲んだ浴衣を着た君は、誰よりも綺麗で冷たかった。
僕には君を守ることが出来なかった。

また夏が来た。

僕は君に会いたい。

『君に会いたくて』

1/19/2023, 11:41:34 PM