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泣かないよ

と思っているのに、泣いてしまうことがある。
ゲームに感情移入しているとき。
映画で無念の極みみたいなシーンを見たとき。
小説で大切に感じた登場人物が痛みに泣くとき。
そういうときはいつも、心を込めて作品の中に入り込んでいる。
心を込めて作品に触れること。
そのことを覚えたのは大学生の時だった。
当時、ヘルマン・ヘッセの『春の嵐』を読んで、魂が震えるほど感動した。それ以来、それがどんな作品であれ、心を込めて触れるようにしている。
それはこれからも大切にしたいと思っている。
でも、自分のことでは、泣かない。
というか、泣けない。
どうしてだろうか。
きっと、自分にとって、自分自身が遠い存在だからだ。
過去、いいことがあまりなく、傷つくことばかり経験した。だから、自分を近くに感じると、その痛みに壊れてしまいそうになるんだと思う。
せめて自分を見て見ぬふりをして、過去などなかったように忘れていられれば、今だけは平穏でいられる。そんな気がしているんだろう。
自分自身に、感情移入しない。
それは自己防衛の一種かもしれない。
愚かな方法だとも思うけれど。
でも、それ以外に自分を幸せにしてあげられる方法が見つからないなら、それを選ぶ。
もし、本当に幸せにしてあげられる方法が見つかったら。
自分を迎えに行ってあげようと思う。
いまは遠く過去に置いてきてしまっている自分。
必ず迎えに行くから、待っていて。

3/17/2023, 12:27:42 PM