洗濯物を干そうとベランダの窓を開けたとき、東城乙葉が一番に思ったのは"冷たい"だった。
それまでのむっと来る熱気ではなく、これから来る冬を思わせる刺すような冷気に秋が来たのだと教えられる。見れば遠くの木々がわずかに色づきはじめていた。
「するかぁー、衣替え」
誰に言うでもなく呟いて洗濯物を干し終える。
今干したものをしまい忘れそうと思いながら、思い立ったが吉日と乙葉は物置から秋冬物を入れたコンテナを引き出した。
乙葉と夫の分は出すだけでいい。よれて古くなったものを寄せつつ、真冬用の分厚い服は仕舞い直した。トレンドからは遠いものだが、毎年服を丸ごと買い替えるわけにもいかない。捨てた分だけ新しく買えばいい。何枚買い直せるかを数えつつ、乙葉は服の入れ替えを済ませる。
大人の分の衣替えを終えたところで、乙葉は寝室へ声をかけた。
「撫子ー、おいでー」
「なぁにー?」
パタパタとやってくる軽い足音。
七歳になった娘の撫子を呼び出すと、乙葉は服を広げて撫子に合わせた。何枚もそれを繰り返す母を撫子はぽけっとしながら見ているが、大人しくしてくれるならそれでいいと説明もせずに一通りの確認を終える。
そして、はぁと一つため息をついた。
「だめだぁー、全部買い直しだぁー」
「だぁー」
「大きくなったねー」
「でしょー!?」
子供の成長は早すぎて、衣替えは毎年丸ごと買い替えになってしまう。流行に合わせたものを買えるのは嬉しいが、全部となると家計的にはしんどいものがあった。
それだけ背が伸びているのは喜ばしいことではある。
去年よりも一昨年よりも大きくなった娘の頭を撫でて、それからコンテナの中身を整理する。無意味だと思いつつ娘の夏物を仕舞って、物置の中へ入れ直した。
一つ、伸びをする。隣の娘も真似をした。
「撫子、お洋服買いに行こっか」
「えー! ママのかいもの長いからヤダ! わたしおるすばんしてる!」
「撫子の服を買うのよー」
年々減らず口が増えていく撫子を宥めつつ、出かける支度をさせる。乙葉の秋は今年もこうしてはじまるのだ。
10/22/2023, 11:15:28 PM