♯夜が明けた。
群青の空に沈みゆく月。カーテンの隙間からは朝の光が差し込み、少しずつ赤みを増していく陽射しが、ほんのりと甘みを含んだ夜の匂いと部屋の中に満ちた闇を洗い流していく。
僕は部屋のすみっこで膝を抱えて見守っている。ベッドにまっすぐと横たわる彼女を。早く目を覚まして。何事もなかったみたいに笑って「おはよう」と言って。僕はそう必死に祈り続ける。刻一刻と近づく夜明けに気が狂いそうになりながら。
先ほどまで彼女は生きていたのだ。静かに降りそそぐ青い光の下で、幸せそうに眠っていたのだ。花びらが舞い降りたように閉じた瞼を、なめらかな丸みを帯びた頬を、ふっくらと色艶めいた唇を、たしかに僕はこの目で見たのだ。
その彼女が、夜明けとともにゆっくりと死んでいく。重石のように固い瞼、のっぺりとした白い頬、干からびてカサついた唇――細い首についた引っ掻き傷と、赤黒い指の跡。
神々しいまでの金赤の光が、僕の罪を白日の下に晒そうとしていた。
4/29/2025, 7:33:56 AM