【この場所で】
幼い頃家の前にある小さな池が大好きだった
アメンボなんかが浮いていて
雨の日はどんよりとし黒く染まってしまうけれど
朝起きると雲ひとつ無くて
何より、まだ雨が乾ききっていない中
水面に映る青い空が好きだった
からっとした夏を思わせるようで
この青い空はどこまで続くんだろうとか
なんだか私たちが住む街だけ丸く囲まれているようだなとか
大学生になり私はこの家を離れていた
新幹線で3時間かかる場所にある新しい家は
少し古くさい築50年の家で木の匂いが鼻を掠めた
幼い私が思っていたより空は広く続いていて、
どこまでも広く広く私たちを覆っていて
それでいてどこか寂しい気持ちにさせた
あれから何年経っただろうか
意見の食い違いで父と酷く言い争い、
あの家には帰らなくなってしまった
まだあの家の池にはアメンボはいるだろうか
まだ広く青い空を水面に映してくれているだろうか
あの町は、
もう私の知らない景色になってしまっているのだろうか
帰ろう、あの場所へ
3時間の新幹線で流れゆく景色は
鮮明に、だけれどどこか曖昧で
溢れ出すほどの記憶を思い出させた
ただいま、私の大好きなこの場所でまた会えてよかった
2/11/2024, 12:07:40 PM