「……なぁ。俺さ、今回のことで、しみじみ思ったんだけど」
「んー?」
「あのな。……お前や俺がこの先、何かしらを選択して、そんで行き着いた場所が、『たとえ間違いだったとしても』。
俺はお前となら、いまみたく、どんな状況でも笑っていられそうな気がする……こんなん思った女、お前が初めてだ」
「……そう、なの?」
「いまの、この状況……普通の女ならキレてるだろ?」
「まぁねー、ナビ搭載してない車で出掛けて、でもスマホをお互い持ってるってのに、日帰りドライブのはずがすーっかり、車中泊の一泊旅行になっちゃいましたー、なーんて! 普通だったら、相当気まずいだろうねー?
にしても……フフッ、大体さぁ、目的地は海だったはずなのに、なんでいま、山の上の展望台? こんなのキレるよりウケるよ、そもそも方向オンチ二人でドライブデートなんて、その時点で間違いだったってのに、フフッ、フフフフフッ!」
「いや、実際の俺は方向オンチじゃない、説得力ねーけど。いままでのドライブでこんな、アホな間違いしたことない、なんて言うかその、お前だからなのか、油断しすぎてたし……」
「なにそれ、じゃあ私のせいってことかぁ……アハハッ!」
「ってか……見事に、話の腰を折られたな」
「えー? プロポーズ、しないの?」
「うーん、リベンジする。今度、ちゃんとした旅行に行こうか?」
「ちゃんとした旅行、だって! フフッ」
◇◇◇
「……えー今回、私たちは。この旅行にあたって、事前にきちんと下調べをし、車ではなく、公共交通機関を用いて、旅行先に赴いた……ここまでは、とーっても、よかったんですが!」
「………………」
「いやぁ、でもさ。一日後の間違いで、よかったよね? 一日前だったら、予約のキャンセル料もだけど、せっかくのお料理とか、もったいないことになって、旅館のご迷惑になっちゃってたかもだし?」
「………………」
「お互い、月曜日の午前休も取れたんだし? ねぇ、全然問題なくない?」
「……宿の予約の日付け、間違えるとか。俺は本当に、どうかしてる……」
「フフッ。まさか、浮かれてた?」
「っ、否定出来ない。たぶん明日の、お前の誕生日の日付けに、引きずられたから……」
「えー? なにそれ、また私のせいじゃーん、フハッ、アハハハハッ!」
「って、こんな足湯に浸かってる場合じゃない、今夜の宿!」
「まーまー、いったん落ち着いて。ほらあそこ、観光案内所で聞けば、民宿とか空いてるかもだし。なんならレンタカーで、車中泊でも……」
「さすがに、それはねぇだろ?」
「フフッ、そう? あのとき、楽しかったよ?」
「あー……くそ。プロポーズしたい……」
「えー? まだしないつもりー?」
◇◇◇
「っ、うわああああっ!」
「ええっ、なになに?! まさか、ゴキブリ?!」
「違う。じゃなくて……これ! なんで俺のカバンに、え、先月から、ずっと……?」
「?? ……ああ、なーんだ、結婚届……って、あれっ? なんでまだ提出してないんだろ?」
「……あっ。式の前々日くらいに、ウチの親に記入してもらって、そのまま……」
「そういや式の当日も、すっかり忘れてたねぇ。バタバタして、それどころじゃなかったしー。……フフッ、やだ。この一ヶ月は私たち、夫婦じゃなかったってこと?」
「あああああ……と、とにかく、提出!」
「いまから行く? ってことは今日が、二つ目の結婚記念日だねー!」
「ハッ、記念日か……どうする? 4月23日でいいの?」
「明日4月24日にすると、今日が独身最後の日になります。日にちはどっちでも、いつでもいーんじゃない? フフッ、いつになったって、毎年爆笑出来そうだもん!」
「ったく、いい女だな……プロポーズしたくなった」
「あら、そう? でもねー、これが最後だよ?」
4/23/2026, 6:54:28 AM