カーテンの間から音もたてずに顔を出す君に笑ってしまった。
「カーテンのお化けみたいだ。今年のハロウィンの衣装かな?」
「違うって分かってるでしょ」
「あはは、ごめんよ。で、どうだった?」
試着室から顔を出す君は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「私にはまだというか、なんかちょっと…」
俺のわがままを聞いてくれるというから君を着せかえ人形にデートの約束をしてその最中。着てもらい彼女の反応が上々ならば買い上げて足元には複数のショッパーが置いてある。
あまり欲しがらない君だから試着することも少なくてたくさんの服に袖を通してもらった。表情ひとつ見逃さず試着の感想を尋ねる事も、試着した君を褒めることも忘れない。
最後に着て欲しいと渡した服は俺が一番見たかった服。メインイベントと言ってもいい。試着への抵抗を極力なくし多少の露出も気にしなくなった君はそんなことは知りもしないだろう。大切に抱えて「待っててね」とカーテンを閉めたのだ。
ショッピングの合間にカフェでひと休みをして一時的に疲れはとったつもりでも体力的な違いと着替えの連続で君の疲れは拭えなかったのかもしれない。
試着室の君の感触が掴めない。
「好みに合わなかった?」
「ううん、すごくデザインもシルエットも好き。でもね店員さん呼んで欲しくて」
君の助けになればと店員に付き添ってもらった。俺は試着室の前で待ち、店員へ耳打ちする君は相変わらず顔だけを覗かせる。こそこそと俺には聞き取れない。頷いた店員は小走りにストールを手に試着室の君に手渡した。
「ね、どうかな?」
「すごく可愛い。見かけた時ずっと君に似合うと思ってたんだ」
肌寒かったのか肩にストールを羽織ってくるりと回る。飴細工のように繊細なレースがヒレのように揺れ動いた。
ストールとワンピースをそのまま買い取って着飾った君の隣を歩く。
「布地薄かった?」
「えっとね、胸元がちょっときつくて…目立っちゃうから」
言われてしまえば視線が下がってしまうもので。
「…見ないで」
ストールを寄せて防がれてしまった。最近服がきついと呟いていた理由って、そっか、胸…。
「このまま下着も買いにいこうか?」
「もうっ!」
君からの体当たりなんて可愛いもので簡単に受け止められる。
「でも、」
「?」
「今日は好きな服着せて良いよって許可しちゃったから。好きなのあったら…」
胸に頭を押し付けながらごにょごにょと言う君が
「期待してしまうよ」
「期待していいよ…?」
愛おしくてしばらく抱きしめて精一杯の君の頑張りを噛み締めていた。
10/12/2023, 3:42:31 AM