【泣かないで】
「泣かないで」
考える間もなく声に出してしまって、直後に後悔する。
もっと気の利いた言葉があったんじゃないか。
限界まで頑張っている人に頑張れと言うような、善意の皮を被った追い詰める言葉になっていないか。
そんな事をいくら考えたところで、言葉はすでに彼女の聴覚から脳までとっくに伝達済みだろうからどうしようもない。
「なんでもないよ」
そう言って彼女は、薄く小さい唇の端を重そうに持ち上げる。
可愛いなと思う。
彼女はいつだって可愛い。
でも、違う。今見せてくれた笑顔だって、本当に誰よりも可愛いんだけれど。
そうだ、わたしが言いたかったのは
「笑って!」
そう言って、私にできる精一杯の面白い顔をしてみる。
プリクラでみんなで変顔した時に私だけあまりにも酷い顔をするものだから、だれも気を使ってインスタに載せられなかった渾身の変顔。
君には絶対見せたくなかった顔。
君は目を見開いて、驚いた顔をする。
大きく開いた目を少し細めて、長いまつ毛に絡んだ涙が零れる。
君は笑う。
涙が全部乾いたらいつものカフェに誘おうと思う。
12/1/2023, 8:54:12 AM