私には憧れの先輩がいる。
成績は常に学年トップで無遅刻無欠席、週一で告白されるほどの美人で、いつも笑顔で沢山の友達に囲まれている、そんな完全無欠の先輩。
きっかけは、たまたま廊下ですれ違った時。にこりと女神の微笑みを向けられて、堕ちた。ちょろいって?実際に向けられてみるといいよ、一瞬だから。
その日は突然やってきた。
鬱陶しい雨の日だ。雨音を聞きながら登校していたら、先輩の後ろ姿が見えた。
話しかける勇気などあるはずなく、そのまま付いて行ったのだが…先輩はそのまま裏路地に入ってしまう。
どうしたのだろう?学校とは反対側なのに。
「そっちじゃないですよ」
と声を掛けようとしたその時だ。私はとんでもない光景を見た。
先輩がうずくまって吐いていたのだ。
端正な顔が歪んでいる。
吐瀉物が辺りに広がっている。
雨の音と呻き声が混ざる。
「どうしたんですか?」
思わず話しかけていた。
先輩は顔を伏せて、首を振る。
「体調が悪いんですか?」
小さく頷く。
「学校、行けそうですか?」
俯いたまま動かない。
「行けないんですか?」
そんなに私の声が大きかったのだろうか?先輩がビクリと肩を震わせる。
ため息。情けない先輩なんて、解釈違い。
「みんな待ってますよ」
「…それが嫌なの…」
先輩が初めて声を出した。
「しんどい…期待されるたびに吐きそうになる」
いつもよりワントーン低めの声だ。
ため息。暗い先輩なんて、解釈違い。
「でも、みんなガッカリします。そんな先輩」
だって、これで休んだら無遅刻無欠席の記録が無くなってしまう。先輩に傷がつく。だから、
「行ってください。肩貸します」
返事を待たずに、先輩の体を起こした。軽い。
先輩が何か言いかけたような、首を振っていたような気もするが、気にしない。
「ずっと、みんなの理想でいてくださいね。先輩」
5/20/2024, 12:53:59 PM