美佐野

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(夏草)(二次創作)

「また生えてるなぁ」
 牧場主アキトは空を見上げて愚痴を零した。
 放棄されていたこの牧場は、以前は牧場主がいてかなりの賑わいを見せていただけあり、たいへん肥沃な大地の上にあった。ひとたび土を耕し種を蒔けば、あとは水を欠かさないだけで作物が実るのだ、その豊かな恵みは今も健在である。裏を返せば、畑以外、作物以外についても簡単に育つわけで、ちょっと手を入れないとすぐに草が生えてくる。
 季節な夏。
 春の始めにシェルファから貰い受けた鎌は、随分手に馴染んでいる。赤い風車の力を借りて改良したので、使い勝手もよくなっている。だというのに、家の前や風車の近くには茫々たる草、草、草。
「カリーナさんの話だと、あちらの……オリーブタウン、だったっけ……牧場主は、草から糸を作って布を編むとか言ってたけど……」
 名も知らぬ牧場主に想いを馳せる。そよ風タウンでの草の使い道なんて、せいぜいが赤い風車で肥料に加工するぐらいだ。肥料なんて幾つあっても困らないからいいのだが、だとしても毎日の草刈りにはうんざりだ。
(カカポロにお裾分けするのも、流石になぁ)
 山の恵みなら何でも喜んで受け取ってくれるコロボックルの顔が思い浮かぶ。自分が持て余している物を押し付けるのは躊躇われた。もっと、花とか木の実、ハーブならまだしも。
「牛たちも食べないしなあ」
 アキトの暮らしを支える家畜たちは、小高い丘に広がる牧草地の草は食べるけれど、それ以外の草は食べない。ああ見えてグルメなのである。結局、夏草の使い道が思い浮かばないままに時間だけが過ぎていく。
「夏草や 兵どもが 夢の……なんたら」
 遠い異国の偉人が呟いた詩を諳んじながら、アキトは一人で鎌を構える。放っておいても増えるばかりの草たちに、今は真正面から向き合うしかないのだ。
「肥料にはなる、し!」
 ジャンプして、ぐるんぐるんと振り回すと、面白いように雑草たちが刈り取られていった。

8/29/2025, 6:29:04 AM