『いつまでも捨てられないもの』
俺には彼女が居た。
可愛くて綺麗で、優しくて、良いところばっかりのあいつ。
だけど、半年前にこの家を出ていった。俺がいつも吸ってるタバコの話を聞いて。
「あれ?お前ってタバコ吸ってたっけ?」
ベランダでタバコを吸う彼女に俺は聞いた。
「うん。吸い始めたの。」
「そっか」
「はい。たっくんも吸う?」
彼女が俺にタバコを勧める。
「いや。こっち吸う。」
俺は自分のポケットからいつものタバコを取り出した。
「…。いつもそのタバコだね。変えたりしないの?」
「うん?まぁ、変える理由ないし。」
「じゃあ、私が変える理由作ってあげる!」
彼女は俺に向けて持っていた一本のタバコに火を付けた。
「彼女が吸ってる味と同じ味!はい!」
「あっごめん。言い方ミスった。」
「変えれないんだよね。」
「え?」
彼女が一本のタバコを見て言う。
「なんで?」
俺は深いため息と共に話し始めた。
「ゆいと約束したから。」
「ゆい?誰それ?」
彼女の顔が少し怖くなった気がした。
「元カノみたいな人。」
ゆい。そいつは大学でぼっちだった俺の初めての友達だった。
クールで猫っ気のあるゆいは俺には優しかった。
大学で一人ぼっちだった俺に声をかけて、色んな初めてを教えてくれた。
だけど、とある日を境に無視されるようになってしまった。
俺は無視される理由を考えたが、分からなかった。
大学の講義終わり、ゆいを半ば強引に引き止めて無視されている理由を聞いた。
ゆいは軽くため息を吐いて言った。
「違うんだよ。」
意味が分からなかった。ゆいが続けて言う。
「私は一緒に吸える人が好き。」
「え?」
予想外の言葉に思わず声が出た。だけど、ゆいは俺のことそっちのけで冷静に話し始めた。
「たくやは吸わないでしょ。たばこ。」
「この前一緒に吸ったとき、むせて大変だったでしょ。」
「だからだよ」
話し終えて帰ろうとするゆいの腕を引っ張って俺は言う。
「僕がたばこを吸える人だったら良かったの?」
ゆいは少し間をおいて言った。
「うん。同じ種類のね。」
俺は食い気味にゆいに聞いた。
「僕はどうしたらゆいの近くにいられる?」
「じゃあ私と同じ種類のたばこに吸い慣れたらね。」
「えっ?」
「あと、私好みの男になったら一緒にいてあげる。」
ゆいは俺の耳に口を近づけてゆいのいう"自分好みの男"の特徴を言って、帰っていった。
それ以来、ゆいから教わったものを活用して頑張ている。
「そっか」
彼女は手に持っていたたばこの火を消し、たばこの箱を机に置いて帰っていった。
「じゃあね。さよなら。」
彼女が帰ったあと、彼女が置いていったたばこの箱からたばこを一本取り出した。
「やっぱり無理だ。」
彼女が置いていったたばこの箱をゴミ箱に捨て、ベランダで一服する。
「やっぱり、いつまでも捨てられないな。はぁ」
8/17/2023, 12:02:24 PM