粥井

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いま 私の願いごとが 
叶うならば 翼がほしい
この背中に 鳥のように 
白い翼 つけてください


2083年。10年前に蔓延したウイルスにより、新生児が背中に翼をたずさえて生まれてくることが一般的となった。

翼を持った子供たちが使う現代の音楽の教科書にも『翼をください』が掲載されているなんて、伝統とはつくづく滑稽なものである。
「"白い翼"じゃなくてアイツのは"黒い翼"だよね」
「毎日遠くのスーパーまで行ってるから汚いんじゃない?ほらアイツんちビンボーだから」

子供たちの背中には白い翼がついているし、鳥のように飛ぶことだってできた。
しかしキミの翼は黒くくすんでいて、そしてボクの翼は──

「〇〇くんのって本当に白くて綺麗」
「アイツのもペンキでこのくらい白く塗ってやろうぜ」
他とは違って一際目をひく、シルクのような艶のある純白だった。
それもそのはず。運悪く翼を持たずに生まれて来てしまったボクは、世間体を気にした親の財力によって造り物の翼を手に入れたのだ。

血も神経も通わない翼では飛べるはずもない。
他の子のように空を飛んでおつかいに行くなど出来やしない。

萎れた翼を畳んだキミの背中をそっと見つめる。 
 ──飛べない翼だなんて決してバレてはいけない。

大人たちに合わせて今は地上での生活を中心としているが、数十年も経てば状況は変わってくるだろう。

飛ぼう。飛ぶよ。
ボクも、キミも。


この大空に翼を広げ
飛んで行きたいよ
悲しみのない自由な空へ
翼はためかせ 行きたい

11/11/2023, 3:00:49 PM