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「紅茶の香り」


お母さんは何飲むのー?

休日のお昼時に聞こえてきたのは親子の何気ない会話
ドリンクバーのコーナーの前で悩む母親をよそに、
何種類もあるティーパックを見て、子供はこれは?これは?と質問責めにしていた。
そんな光景を見てふと自分の幼き日を思い出す。

学校が休みの日は家で母と2人お菓子を作ってはお茶会ごっこをしていた。
クッキーやスコーン、たまに和菓子と色々作った物だ。
そして、必ずセットで紅茶が出てきたのだ。
裕福とは言えなかったけど、手作りお菓子と紅茶のお茶会がとても楽しみだった。
そんなある日、母はティーパックじゃない、いつもとは違う紅茶を出してきたことがあった。
私は興味津々で紅茶が入るまでの過程を眺めていた。
コポコポとティーポットにお湯を注ぎ、茶葉を蒸らす。
カップに入れる時にほのかに香るオレンジの香り
初めて安物ではない紅茶の香りを嗅ぎ、期待を膨らませ、いざ一口ごくんと飲んだ。

あれ?あまくない
口いっぱいに広がる香りと味は別物であり、私は明らかにしょんぼりとした様子だったのだろう。
その様子を見ていた母は微笑み、私に、にんじんのパウンドケーキを差し出し、一緒に食べたら美味しいよと笑った。
それに釣られ私も笑い、いつもより少しだけ特別なお茶会になったような気がした。

そんなことを思い出しながら母にメールを送りスマホを置き、先ほどの親子に視線を戻した。
するとすぐに返信が来て、週末は久々にお茶会をすることになりそうだ。

10/28/2023, 4:24:12 AM