「声が聞こえる」
俺は趣味のソロキャプをするため、山奥へと車を走らせていた。
ガタゴト、ガタゴト。
舗装されていない路面に苦戦しながらも、キャンプ地の入り口に到着した。
「おぉーい、おぉーい」
駐車場付近で女の声がする。
先客がトラブルでも起こして、助けを求めているのだろうか?
そう思った俺は、車を女の方へと走らせた。
しかし、何か様子がおかしい。
女の表情がよく見えないのだ。
違和感を感じながらも、車を女の方へと走らせた。
しかし、それが間違いだったということに、俺はすぐに気がついた。
女の「表情」が見えないのではなく、
「顔」そのものが無いのだ。
目、鼻、口。
全てのパーツがない。
のっぺらぼうと言えばいいのだろうか。
女がこの世のものではないと悟った俺は、急いで車を反対方向に走らせ逃げ出した。
その後、変わったこともなく数年が経ち、俺は女のことなんてすっかり忘れていた。
そしてある日、俺は友人と飲み会をすることになり、近所の飲み屋へと足を運んだ。
だいぶ酒が進んだころ、友人がとあるキャンプ場の話をはじめた。
「なぁ、△△ってキャンプ場知ってるか?」
「なんでも顔のない女の霊が出て、そいつに声をかけられた人間は、顔がなくなって死んでじまうらしい」
「はは、そんなバカな話s...」
と俺は言いかけたが、その瞬間、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おぉーい、おぉーい」
振り返ると、顔のない女が目の前に立っていた。
ヤバい、殺される!
そう思った俺は、友達のことなんて見向きもせず、店を飛び出した。
タクシーを捕まえた俺は、目的地を聞こうとする運転手の声を被せるように、「とにかくすぐに出してください!」と言った。
タクシーの運転手はそういったことには慣れているのだろう。何か言うわけでもなく、すぐに車を出してくれた。
しかし、次の瞬間。
目の前にあの女が現れた。
タクシーの運転手は慌てて急ブレーキを踏んだが、その反動で俺の体はフロントガラスを突き破って、車の外へと放り出された。
今まで味わったことのない痛みが、顔を襲う。受け身を取れなかった俺は、顔を地面に擦り付けられるように吹っ飛んだのだ。
しばらくして、救急車と警察が来たが、そこで俺の死亡が告げられた。
9/23/2024, 10:39:25 AM