「突然の別れ」
幼い頃は、お伽話や絵本が好きだった。
いつの日かあんな世界で暮らしたいって、そう思っていた。
いつの日だっただろうか。まだ自分が小さい頃の話だ。
絵本を読んでいたある日、誰にそうされたかは忘れてしまったが、誰かに絵本を取り上げられ、こう言われた。
「こんな場所があるって信じてんの?笑える!いつまでも夢見てずにさぁ、漢字の一つでも覚えたほうがいいんじゃない?そっちの方がよっぽど役にたつでしょ?」
その言葉は幼い自分の胸に深く突き刺さった。
もう夢なんて見ても仕方がないの?
私は、どこに行けばいいの?
学校にも家にも安心できる場所がなかった。
だから自分だけのおとぎの国に逃げて、心を守っていた。
だけど、それももうできないような気がして。
ただただ、何にもない、狭くて仄暗い心の底に閉じこもった。
これが、自分のおとぎの世界との突然の別れだ。
華やかな生き方も、ハッピーエンドも、所詮は作り話。
孤独であろうが、苦痛まみれであろうが、バッドエンドであろうが、どうだっていい。
錆びついた無抵抗の自分を、ただただ見つめているだけで充分だ。それでいい、どうだっていい。
もうどうにでもなればいい。
「そんなこと思わずにさ、」
「もうちょっと、柔らかくというか、自分に優しく、気楽に生きたまえよ。」
「キミは少々肩を張り過ぎているんじゃないかい?そんなに他のニンゲンの言うことに従わなくたっていい、苦しまなくたっていいんだよ。」
「誰かの言うことに従ったからといって、自分の気持ちに蓋をしたからといって幸せになれるわけじゃない。キミも自分の見たい夢を見たらいいじゃないか。」
「ボクが存在する理由が分かるかい?ボクはね、全ての宇宙の、全ての存在が、幸せにその生を全うするのを見守るためにいるんだよ。」
……。でも、見送ってばかりだと辛いんじゃないのか?
「まあね。今までずっと、生まれては見送っての繰り返しだからいろんな何かに置いて行かれているのかもしれない……見送る時になにも感じないといったら嘘になるね。」
「それでも、それでもボクは満たされているんだ。だって、彼らが最期に見せた安らかな感情がちゃんと分かるからね。」
「ニンゲンのことを十分理解しているとは言えないかもしれないが、ボクはキミにもちゃんと幸せに暮らしてほしいのさ!」
「とにかく、一日一日の小さな幸せを大切に生きてくれたまえよ!」
「それじゃ!!!お昼ご飯にしようか!!!今日はちょっと高級なカップ麺だよ!!!」
……自分の幸せを願ってくれている誰かがいるっていうのは、こんなにも嬉しいことなんだな。
せめて、あんたとの突然の別れを迎えないように、いや、迎えても悔いのないように大事に生きないと。
そう思って、自分は背筋を伸ばした。
5/20/2024, 9:58:27 AM