森羅秋

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 ぼくは書く事が下手だ。
 国語のテストも作文も論文も人並み以下で上手くならない。
 それでも書く事が好きで、書き続けますられる理由として初めに選んだのは日記だった。ぼくのことを拙い文章で記録していく。漢字を多く使いたくて辞書を片手に書き綴っていった。
 一年に一冊。そう決めて書き続けていた文字は仕事をし始めてから億劫になった。業務によりキーボード入力が中心になると、書くこと自体が減り、言葉も漢字も徐々に書けなくなってしまった。あれだけ大切にしていた辞書も今は埃を被ってしまっている。これでは駄目だと思いながらも、日々は過ぎていく。
 
 ある日のこと、ぼくは何気なく本棚整理を始めた。不必要になった本を段ボールに詰めていくなか、ふと、カラフルな日記を手に取った。書いていたことすら忘れていた日記帳。ぼくは少し驚いた。
 日記帳の数は21冊。本を開くと若者の言葉が綴られていた。パラパラと捲り時間忘れて読みふけった。ここには過去のぼくが息づいていた。恥ずかしいような懐かしいような、自然に口角上がってしまう。

 日記帳の後半からは空白が目立ってきた。
 忙しくて書く気力がなかった事を思い出して苦笑する。そのまま最後のページをめくった。
 ぼくはハッとして目をとめる
 『まだまだ日記続けるぞ。文章上手くなったら小説とかチャレンジしてみたいな』
 明らかにぼくの字だったが、この思いは記憶にない。
 ハテ。と首を傾げたものの、文章を学習するのに何か話を書いてみてもいいかと思った。ほんの気まぐれだ。三日坊主で終わるかもしれないが、動機なんてなんでもいい。文章を書くと決めたらワクワクした。
 新しい日記帳を購入して真新しいページにペン先を落とし今日の日付をいれる。相変わらず崩れた文字だが丁寧に書くと綺麗にみえた。
 『日記をはじめると言ったら妻が驚いていた』
 ぼくはまた日記をつける。
 出来れば死ぬまで書き続けたいものだ。


7/31/2023, 11:51:24 AM