どれだけ手を伸ばしても、届かないものがある。生まれもった個性は、簡単に変えられない。
幼馴染みは美女、親友は美男、その二人に囲まれた俺は普通。
普通のはずなんだけど、左右の基が良すぎるあまり、俺の顔面評価は下の下にまで落ちた。
勉強と運動、加えて家事も、子供の頃から頑張ってきた。自分の顔面に対する評価を、他の部分でカバーしたかった。しかし、現実は甘くない。苦手なことを努力で減らした結果、美男美女の執事のようなポジションを位置づけられた。
特に幼馴染みはわがままで、悪気なく俺をパシリにしていた。パシられる俺に付き合う優しい親友。その存在に救われていた。俺一人で幼馴染みの言いなりでは、あまりにも惨めだったから。
反面、誰もが羨む美しい顔面が、毎日横にある。抱く劣等感は徐々に強くなった。
高校の頃に撮った写真を見ながら、ため息をつく。
俺の顔面は、どんなに願ってもイケメンになれない。叶わぬ願いだ。
「なに見てるの?」
幼馴染みが無責任にも捨て置いた娘が、俺の横にちょこんと座った。美男美女の娘は、二人の良いとこ取りで生まれてきた、絶世の美女である。
「昔の写真。真ん中が一番ダサいでしょ?」
写真の中で仏頂面をする自分を指差し、自虐しながら笑う。この虚しさは、顔面に恵まれた者にわかるはずもない。
「そうかな? わたしは真ん中が一番かっこいいと思う」
「子供はお世辞なんて言わなくていいんだよ」
「お世辞じゃないもん。私とお父さんを捨てて、どこかに行ったお母さんなんて大嫌い。夜は絶対に帰ってこないお父さんも、ちょっと嫌い」
この娘のお父さんもとい親友は、己の顔面が武器になると熟知している。夜の世界で輝いているのだ。適職を選ぶことに異論はないが、娘に寂しい思いをさせるくらいなら、昼の仕事のほうがよかったのではないか?
いくら言っても聞かない親友の代わりに、俺がこの娘の面倒を見ている。親友には頼れる家族がいないから、俺が力になるべきだと思った。
「わたし、知ってる。この写真の真ん中の人は、とっても愛に満ちた人なんだよ。困ってる人は見捨てない、優しい人。それに、なんでもできて、すごくかっこいいんだから!」
そんなこと、初めて言われた。なんでもできるわけではないが、努力の結果を認められるのは嬉しい。単純な俺は、その一言に魅了されてしまう。
褒められることに慣れない俺に、子供の純粋さは眩しすぎる。
「わたし、大きくなったら、あなたと結婚する」
それは叶えてやれない願いだが、この娘をできるだけ幸せに導くことならできるはずだ。
叶わぬ願いに思いを馳せるのは、もう終わりにしよう。この娘の幸せが、俺の新たな願い。
3/18/2025, 3:41:22 AM