もち

Open App

#ベルの音


 シロは、音楽隊の新入りです。
 けっして聖歌隊のような花形ではありません。
 けれど音楽好きがあつまって、熱心に練習をしています。

 今夜は、村のお祭りです。
 音楽隊も広場で演奏をするのです。
 これはチャンスです。
 音楽隊は「聖歌隊に入れなかったおちこぼれの集まり」と、あなどられているのですから。名誉をかけて、みんな本気です。
 シロがもらったのは、レの音でした。
 ハンドベルというのは楽譜にあわせてみんなで順番に音を鳴らしていく音楽です。シロの出番は少ないですが、音がひとつでも欠けたら完全な曲にはなりません。
 シロにとって、はじめての舞台でもあります。
 朝はだれよりも早起きして、夜遅くまで居残りして。いつもシロだけが遅れてしまうむずかしいパッセージは、とくに念入りに練習を重ねてきました。
 
 夜。
 お祭りの篝火のまわりで笑いあってお祝いしている仲間たちの輪から、シロはそっと、はなれました。
 赤い衣装の、気どった聖歌隊たちの横も通りました。暗がりをこっそり抜けるシロの姿に、だれも気づきませんでした。

 村のはずれの、丘のてっぺんまで来ました。
 足をとめて、シロは頭上をあおぎました。
 にぎっていたハンドベルを、夜空にむかって鳴らしました。
 
 レー レー
 レー レレーレ
 
 遠くまたたく星の光が、たちまちにじんで見えなくなっていきます。
 ぽろぽろ、涙があふれてきます。
 
 レー レー
 レー、レレーレ……
 
 場違いな不協和音が、ギョッとシロを見た指揮者と仲間たちの顔が、よみがえってきました。
 ちらちら、雪が降りはじめました。
 
 レー、レー……
 レー…… レレーレ……
 
 
 ぽろぽろ、ぽろぽろ泣きながら。
 まちがえてしまったメロディーを、ずっとずっと、鳴らしつづけていました。

12/20/2023, 2:41:26 PM