マハーシュリーの夏巳

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【お題: 桜 】

花といえば桜だが

変わった花が
一輪、また一輪と
咲き続ける山 の絵本が
病院の文庫にあった

消灯後 なぜか咳が止まらず
迷惑防止のため
看護師の許可を得て 病室を抜け

しばらく デイルームで
過ごしていたが
そのときに 手に取った絵本


「花さき山」 斎藤 隆介

山に入り気がつくと
どうやら道に迷ったらしい

そんな 少女の目の前には
白髪の老婆が
立っており


お前が なぜ
この山に入ってきたのか、

見たことのない場所に迷い込み
見たこともない美しい花々に
お前が 仰天していることも
私はみんな 知っている

と話す


そして 老婆は
その花々は
ただの花ではないことを
少女に告げる

その足元に咲いている、
美しい花は 
先日 まさに 少女が咲かせたもの

そちらに小さな露を
のせて けなげに咲いているのは
双子のきょうだいの
お兄さんが咲かせた花


そして
自分の 身をていして
人々を救った大男のあとには
大きな大きな
山がひとつ 生まれたという―。


小さなものが
自分よりも さらに
小さいもののために
切なさをこらえるとき

いったいこの世には
何が生まれるのだろう


デイルームに飾られた
額縁の写真に見覚えがある

20代のころ
同じ病院に入院したのだが
そのときと全く同じ階の
病棟だと気づいた

年月をかさねて
見てくれは
大きくなったのだろうけれど

私は私より 小さいものに
何か してこれただろうか

あの頃の自分と 今の自分
何が変わって
何が変わっていないのだろうか

4/5/2025, 8:00:25 AM