秋埜

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 制服が夏服に切り替わって、斜め向かいの席に座る彼女の腕にほくろが三つ、並んでいるのに気がついた。それが初恋。
 オリオン座の三ツ星みたいに、そりゃあきれいに並んでいたよね。星座詳しいのかって?全然。オリオン座と北斗七星しか分かんない。
 いや、何もなかったよ。だって、何て声かければいいのよ。あなたの腕のほくろが好きですって、変態か。……変態だな。
 あとまあ、正直苦手なタイプだった。あまり誰かと喋ってるの見たことなくて、いっつも何か分厚い本読んでる感じの。それでもさあ、恋する乙女としては何と言うかこの、少しでも相手のこと知りたかったりして、彼女が図書室で借りて読んでた本を自分でも借りてみたりしてさ。あ?ストーカー言うな。
そしたらこれがまた、クッソ難解で。あの頃に比べりゃ本も少しは読むようになったけど、多分今読んでも難しくて分かんないと思う。内容はさっぱりでもタイトルめちゃめちゃインパクトあったからそれだけ覚えてるんだけど。『夜のみだらな鳥』っての。
 本当に好きだったのかって言われてもさあ。恋ってそんなもんじゃない?理不尽で不公平で暴力的なの。人柄どころか顔でさえないのよ。オリオン座みたいなほくろがたまたま目についたとか、そんなふざけた理由で。それでも恋してた。
 あー、なぁに語っちゃてるかねえ。まあ要するにあれよ、半袖は罪って話。それだけ。

5/29/2023, 9:38:06 AM