作家志望の高校生

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昔から、他人の目が好きだった。正確には、人間のパーツの中で唯一、目だけが好きだった。
日本人は大体黒曜石に似た透明感のある黒。でも、よく見れば茶色に近いものや墨汁と見紛うほどの漆黒もある。
外国の人ならもっと色とりどりだ。多いのは青やヘーゼル。珍しいので緑。日本人ではあまり見かけない色は、やはり珍しいだけあって美しく見える。
もっと珍しいのなら、赤や紫だろうか。
そんな目の中でも、俺が群を抜いて好きなものが一つあった。それは、世界に影を落とす雲のような色あり、澄み渡った青空のような輝きを持った瞳。俺の親友の目が、好きだった。
東欧から移住してきた彼は、明るいブラウンの髪にグレーの瞳の綺麗な人だった。グレーの瞳は珍しいから、実物を見られると思わなくて思わずじっと見てしまう。目ばかり見ていたからだろうか。教室に入ってきて自己紹介をしていた彼と、目が合った。撃ち抜かれたような心地になって、俺は呼吸さえ忘れてその目を見ていた。それが、俺とアイツの最初の出会い。
かなりしっかり目が合ったせいか、休み時間、クラスメイトに囲まれていた彼がそっと抜け出して俺の元に来た。最初の会話なんて覚えていないが、たぶん天気だとか違いの文化だとか、他愛もない話だったと思う。それから俺達はなんとなくで一緒に過ごすようになった。特に遊んだりするわけでもなく、惰性で一緒に居るだけ。一言も話さず寄り添って本を読んだり、スマホを見る。それだけの距離感が、やけに心地よかった。
それが変わったのが、修学旅行の夜。俺とアイツは、別の友人の部屋で雑魚寝に等しいような寝方をしていた。それで寝苦しさに目を覚ますと、ぎゅうぎゅう詰めの布団の中、目の前にアイツの顔があった。
普段は目ばかり見ているからよく見ていなかったが、瞼を下ろされてから分かった。アイツは、相当整った容姿をしている。俺の両手で包めそうなほど小さい顔に乗せられたパーツは、どれも憎たらしいほど整っている。鼻筋はすっと通っていて、ほぼ左右対称に目がある。薄い唇は赤く色付いていて、色素の薄い、真っ白な肌によく映える。
本来の目的も忘れて見入っていると、彼の長い睫毛がふるりと震えた。ゆっくりと開かれた瞼から現れた瞳は、寝起きのせいか少しだけ潤んでいて。息を呑むような美しさに、目が合う気まずさも無視して見つめ続けていた。
しばらく無言の間が流れ、処理が追いついたらしい彼ががばりと起き上がる。見つめすぎて照れてしまったらしいその顔は、ほんのり赤らんでいて。
うるりとした光を纏った、曇り空のような瞳は美しかった。でも、俺はその時初めて、他人の目より、何よりその人自身に美しいと、可愛らしいと思った。自分を見下ろす青みを帯びた灰色さえ目に入らないほど、その肌に浮かんだ曇天を裂く夕日のような赤色は鮮明に見えた。

テーマ:cloudy

9/23/2025, 5:22:47 AM