木蟹村

Open App

 影の中に沈み込んでいるだけというのは、覚悟していたよりもずっと退屈なことだった。
 そもそも、なんのためにこんなところに自ら閉じ込められてしまったのか。いや違うな、閉じこもってしまったのかだ。
 簡単だ。影の中しかないから。
 この誰かの愛情と憎しみ、嫉妬、僻み、絶望を捏ねて固めたこの身では、周りを焦がし尽くしてしまう。
 自らのものとも区別のつかなくなった感情はエネルギーとして膨大で、我々となった私たちは周囲を燃やし尽くさないよう、じっとしているのがさだめなのかもしれない。

7/26/2023, 11:17:26 AM