森の床にはまだ夜露が残り、苔の上には小さな水珠が散り敷かれている。
その上を、木々の隙間から落ちる光の斑がかたちを移しながら揺らめき、ところどころで脈を打つように明滅していた。
ひときわ強く射し込む場所では、小さな草の芽が、訪れた一瞬の光を逃すまいと、そっと葉の表を開いている。
木漏れ日は照らすというより、命へ向けて静かに掌を翳しているようだ。
風が渡ると、光の粒は一斉ではなく、わずかに拍をずらしながら連弾のように揺れ、地面をやさしく撫でていく。
光は絶えず変化する。けれどその移ろいは急ではなく、次にどう揺れるかおおよその予感がある。
光と影の往復を眺めているうちに、いつのまにか自分の呼吸がそのリズムに重なっていく。
呼吸が深くなるのは、光に従うからではなく、光そのものがひとの内側の律動へ寄り添ってくるからだ。
葉の揺れる音、光の瞬き、影の揺らぎ
──森全体が呼吸を共にしているように感じられる。
世界と自分がひそやかに呼応しているという感覚。
自分という存在が、広大な流れの中のほんの一瞬の波にすぎないと確かめていられる安らぎ。
森そのものに包まれ、世界の一瞬の呼吸へ身をゆだねて溶け合うような感覚。
時間も境界も薄れてゆき、心がひたすら澄んでゆく。
題 木漏れ日の跡
11/16/2025, 9:26:45 AM