『勿忘草』
「また会ったね」
嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる女性。
先日街で男性にしつこく口説かれている場面を助けたら、懐かれてしまいました。全く、やれやれですわ。
よかったら一緒に散歩をしようと彼女は言います。
見かけによらずグイグイと来る娘ですわね。
私はセバスチャンを先に帰らせて、
その子と近くの公園を散策することにしました。
彼女は歩きながら色々なお話を聞かせてくれました。
勇者がドラゴン退治に行った話や、メイドが魔法のポットを爆発させて屋敷が紅茶の海と化した話…。
彼女の奇天烈なおとぎ話に耳を傾けていると、
足元に小さな青い花を見つけました。
この花、以前も散歩をしていた時に見かけましたわ。
道端にひっそりと咲いていて、
誰かに踏まれ痛そうにしてましたわね。
「あら、可愛らしい花」
私の視線の先に気づいた彼女も足を止め、
屈んでその花を見つめました。
「あなたの瞳と同じ色ですわね」
彼女は目をぱちくりとさせました。
まあ、私ったら、殿方がレディが口説く時のようなセリフをつい零してしまいましたわ。
恥ずかしくなって頭の中で枕を殴っていると 、
彼女は私をまっすぐ見ました。
「ありがとう、すごく嬉しいわ。わたし......、
貴女にまた会いたいとずっと思っていたの」
あらあら、あなたとは先日と今日たまたまお会いしただけの仲なのに、随分と好かれてしまいましたわね。
あー、困りますわ困りますわ。
彼女はほんの一瞬だけ、寂しげな表情を見せ、
それからまたいつもの明るい笑顔に戻りました。
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その後、彼女と別れ屋敷に帰った私は、
花瓶に飾られた青い花を見つめていました。
帰り際に彼女から贈られたものです。
「今度はお菓子を持ってきてお茶しましょう」
勝手に約束を取り付け、彼女はそそくさと帰っていきました。いつどこで会うかも決めていないのに!
ですが、悪い気はしておりません。
彼女の声を聞きながら紅茶を嗜む、そんな光景を想像しながら、知らぬ間に笑みがこぼれていました。
2/2/2024, 1:33:05 PM