・高く高く
♪どんどん伸びて 天まで届け♪
その合図で、「たかいたかい」をされる。先生に抱えられると、輪になった友達の顔がよく見えた。大人になったら、どんな景色が見えるんだろうって、わくわくした。
あの頃、誕生日が楽しみでしかたなかった。
誕生日だけは、自分を中心に世界が回っている気がしていた。
バカみたい、と吐き捨てながら、大きく伸びをする。23歳の誕生日の朝は、笑えるほどいつも通りだ。
大学に行って、午後からバイトに行って、くたくたになって眠る。
洗面所の鏡には、朝っぱらから疲れた顔をした私がいた。
「いってきまあす」
誰もいない部屋にそう言い残して、私はボロアパートを後にする。
「あ、おはようございます。LINEプロフィール見ましたよ。誕生日おめでとうございます」
振り返ると、見上げるほど背の高い、細身の男性がいた。同じ学部の同級生で、隣人。
ありがとうございます、と答えながら思う。
本当に天まで伸びたようなこの人には、どんな景色が見えるんだろうか、と。
10/15/2023, 5:48:20 AM