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あの日、夏の盛り真っ只中のあの日。
僕は容赦なく照りつける太陽から逃れるように海へと飛び込んだ。
一瞬の浮遊後、僕は冷たい海水に包み込まれる。
僕は海の水が体の熱を奪っていくのに身を任せた。
世界は静かだった。
水の中から空を見上げた。
見慣れた地上の空は遠ざかり、僕はマリンブルーの世界にいた。
息を呑むような、美しさだった。
太陽の光が海面を突き抜け、キラキラと砕けて水中に散らばって、空の輝きを映し出す。まるで、空と海が共鳴しているみたいだ。
空と海の境界に、僕は魅せられた。
海の中に深く潜れば潜るほど、濃紺の静寂さが広がる。
時折その静寂を破るように、銀色の魚の群れが目の前を通り過ぎた。
彼らの鱗は、まるで小さな鏡のように周囲の光を反射し、目が眩むほどのまばゆさを放つ。
潜るほどにその青は濃さを増し、まるで世界の果てに触れるような美しさだった。

そして僕はまだ、あの日の景色の中にいる。
逃げたのは、太陽の熱だけじゃなかった。
全て、全てのことから僕は、逃げ出した。
君からでさえも。
僕は、永遠にこの景色の中に沈んだまま。もう戻らない。
ここでは、すべてが青に溶けるんだ。君の声は遠ざかり、影さえも消えていく。
海の底から見上げる空は、どこまでも遠く、どこまでも自由だ。

7/9/2025, 12:42:36 AM