海に引き寄せられるように、誰もいない駅で降りていた。
夜の海は、果てしなく深い色が広がっていて、冷たい潮風と共に心地よい音を運んでくる。
裸足で浜辺を歩く。誘われるようにして海へと入っていった足は、冷たい水に拐われていくようだった。
つう、と頬を伝った涙は皮肉にも暖かくて、余計な思い出まで連れてくる。……ちがう。余計な思い出、なんて意地を張れるほど今の私は強くない。
淡くて、儚くて、手繰り寄せたら消えてしまいそうな思い出をそっと胸に抱いて、夜の海でひとり、泣いていた。
なんで私より先に死んでんだよ、ばか。
私が生きる意味またなくなっちゃったじゃんか。
私の自殺阻止しといて、最後まで責任もってよ。
どうせなら一緒に死にたかった。
夜の海に吸い込まれていく。
前のときとちがうのは、こんなにも涙が溢れるということ。
大嫌いだ、ばか。
でも、ありがとう。
最後の涙は冷たい夜の海に溶けていった。
─夜の海─ #34
8/15/2024, 2:09:45 PM