ほろ

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もうすぐ春がくる。春は出会いと別れの季節と言うけれど、校舎裏のゴミ捨て場にもその季節の風が吹いていた。
「え、用務員さん週一になるの?」
「おー」
気だるげに落ち葉を掃いている用務員さん──わたしが密かに番長と呼ぶ彼は、何事もないように返事をする。
なんで、と問えば、用務員以外のバイトを始めるのと、他に勤務できる用務員が見つかったからなんだそう。
「何曜日来るの?」
「さあ……その時々だと思うけど」
「ここ以外にバイトもするって、そんなにお金欲しいの?」
「お前にゃ関係ねーよ」
そうだけど。
葉っぱがカサカサ鳴って、番長の持つチリトリに追い立てられる。時々、風が吹くと何枚か逃げていく。
「ま、いい機会だ。お前も受験あんだろ。勉強しろ勉強」
わたしのことなんて、まるで最初から知らなかったみたいに言い放つ。わたしに友達がいないことも、番長目当てでここに来てることも、知っているくせに。
「わたしは、勉強よりお金より、用務員さんと会える時間が大事なのに」
「…………」
「用務員さんは、わたしになんて興味なかったんだ?」
「……さあ」
「……帰る」
踏みしめた落ち葉が、一際大きく音を立てる。
振り返りはしなかった。番長も、わたしを呼び止めはしなかった。

3/8/2024, 3:24:42 PM