城内食堂の振り子時計がとまっている。場のなによりも象徴的だった。
埃積もったテーブルクロス、放置された燭台。
ロウはただれて乾いた姿。
時が留まることは無い。今、こうして靴底を鳴らす人間だって居る。
しかしこの場で歩みを止め、息を止めたなら。
どうだろう。
ホールに広がり下りる段差。
冷気を逃さない回廊も。
静寂に満ち満ちて、耳が痛くなる程に…………聴こえてくる。
――済まないが少年、今の時刻を教えては貰えないだろうか。友人との待ち合わせに遅れそうでね……
――十五時を二分ほど過ぎました。
――有難う。この辺りに屋外時計は見当たらないが、どうして分かるのだね。
――遠くで三回、鐘が鳴ったから。
――ああ、チャペルで式を挙げているんだろう。君の左ポケットの懐中時計はより正確な答えを知っているよ。
――…………。
――お前さん、名は?
――知りません。在りません。
――向かいの洋菓子店のパンを食べた事は?
――有りません。
――少し待っていなさい。
空風が吹き抜ける。
……秒針は動いていただろうか。
踵を返すと、枯れ枝が擦れて鈴の音を鳴らした。
【失われた響き】
11/30/2025, 3:01:08 AM