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  20XX年、人類は――おや、地球上の生命は、未曽有の危機に晒されていた。
 地球全土に全く雨が降らなくなったのである。
 明日、晴れたら前回から数えて1000日目。

 そこまで雨が降らなければ、慢性的に水不足。
 雨ごいや、科学的見地から雨を降らせようとするも効果なし。
 このまま人類は滅亡するかと思いきや、しぶとく命を繋いでいた。
 理由は、科学技術の進歩。

 海水から真水を生成したり、空気中から抽出したり、地下深くから水を汲み上げたり……
 近頃さらに科学技術が進歩し、以前より真水を大量に作れるようになった。
 いよいよ滅亡から遠ざかる。

 最初の頃こそ、終末的な思想で治安こそ悪化したが、今では楽観的なムードが流れていた。
 どうせ、なるようにしかならないと、気楽に構え始めたのだ。

 かく言う俺も、他の人間と同じように気楽に生きている。
 足掻いたところで、何も変わらない。
 どうせ、なるようにしかならないからだ。

 そして今日も車に乗って、生活必需品を買いに近くの商店街まで向かう。
 買い物を済ませ、さあ帰ろうと言うところで、福引の会場が目に入る
 運が悪いと言う自覚があるので、いつも福引はスルーするのだが、虫の知らせというのか、ちょっとだけしてもいい気分だった。
 買い物のレシートを見せ、ガラガラと一回だけ福引をまわす。

「おおあたりー!
 特賞、おめでとうございます!」
 まさかの大当たりだ!
 俺は人生初の快挙に浮足立つ。
 が、はしゃぐのも少しの間だけ。
 俺は特賞の商品を見てがっかりする。

「1賞は、真水200L!
 おめでとうございます」
 水200L、ちょうど風呂が入れるくらいの水の量。
 これでゆっくり風呂に入れと言う事だろう。
 入浴剤もついている。
 至れり尽くせり。
 だがそんな気遣いに対し、俺は全く嬉しくなかった。

 たしかに人類全体で水が不足している。
 けれど、俺個人に至っては余っている。
 これ以上はいらないのだ。

 水は公的機関から支給される。
 その際、二、三日に一度は風呂に入れるように多めにくれる。
 だが俺はシャワー派なので、多くの水を使う事もなく、水を余らせてしまうのだ

 近所の人に分けたりするのだが、ご近所さんはシャワー派が多く、水は減る気配がない。
 そこに来て福引の水200Lである。
 いらない。
 本当にいらない。
 どうせなら2等のテレビが欲しかったよ。

 『水が欲しいと言う人がいれば上げるのに』と思いながら、周囲を見渡す。
 だが今回に限っていえば、誰も欲しがりそうな人はいなかった。
 俺と同じでシャワー派なのだろうか?
 かといって押し付けるのも何か違うし、捨てるのも勿体ない。
 俺は仕方なく、持って帰ることにした。

 だが水200Lはおよそ重さ200㎏。
 福引のスタッフと一緒に運んだが、結構な重労働だった。
 終わったころには汗びっしょり。
 なんて日だ!

 車を運転しながら、水の使い道を考えていると、あることを思いついた。
 そう言えば、車をしばらく洗ってないから洗車もいいなと。
 明日、晴れたら1000日目なので、車を洗ってないのも1000日以上前だ。
 せっかくなので自分の愛車に、シャワーをすることにしよう。
 どうせ水が余っているのだ。
 ここで、パーッと使うのがいい

 俺は家の中から、洗車グッズを取り出し、洗車を始める。
 1000日ぶりの洗車だ。
 以前は洗車なんて面倒なだけと思っていたが、これがなかなか楽しい!
 こんなことなら、もっと早くすればよかった。
 そうすれば水の使い道に悩まずに済んだのに。
 俺はご機嫌に車に水をぶっかけ、そして拭きあげる。

 一時間後、そこにはピカピカに磨き上げられた綺麗な車が!
 汚れすぎてグレーぽかった車も、今では真っ白!
 ピカピカって素晴らしい。
 水はまだまだある。
 これからも積極的に洗って――

「マジかよ」
 いきなり空が暗くなり、雨粒がぽつぽつと落ちてくる。
 次第に雨は強くなっていき、すぐに土砂降りになる。
 『せっかく洗車したのについてない』という怒りと、『久しぶりの雨!?』と喜びが、俺の心にせめぎ合う。
 喜ぶべきか、怒るべきか。

 それにしても、なんでこのタイミングで雨なんか降るんだ。
 せっかく車を洗ったと言うのに、雨が降るとせっかくピカピカにしたのが台無しだ。

 ……待てよ。
 そう言えば、車を洗う時に限って雨になるというジンクスを聞いたことがある。
 信じてなかったが、本当に降るとは。
 それにしても最悪のタイミングで降るものだ。
 せめてもう少し後なら、ピカピカの車でドライブに行くことが出来たのに……
 本当に運が悪い。

 なんにせよ、この雨によって、人類は再び息を吹き返すだろう。
 文字通り、恵みの雨。
 もっとも俺にとっては、災難な雨だが……

 人類の未来はどうなるか分からない。
 この雨だけじゃ何も生活は変わらないかも知れないし、これを期にこれからもっと雨が降るかもしれない。
 何一つ見通せない、足掻いても何も変わらないはずの未来
 けれど一つだけ心に決めたことがある。

「これからも定期的に洗おう」
 どうせ、なるようにしかならない

8/3/2024, 1:13:39 AM