甘々にすっ転べ

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まだ位置情報サービスなんか無かった時代
ケータイの地図を見ながら
電車を乗り継いで最寄駅から待合せ場所へと向かう。

その間もメールが飛んできて道に迷ってないか相談し合っていた。
掲示板で出会ったそのひとは
やはり話しやすく柔らかい雰囲気を纏っていた。

紅茶とケーキを頼んで沢山しゃべった。

「少し寒いね。」

と言うのに
吹きっ晒しの公園でココアを買ってまた話し込んだ。

少し早めの夕食を選んで、指先がさりっと当たって不愉快じゃない事に気付いたら店を出て歩き出した。

コートを脱ぐのを手伝ってくれて、
それは体温が感じられるくらい、
息が触れ合うくらい近くて。

無意識に引き合って呼吸を止めた所で
二人してふはっ、と笑い合ってしまった。

気も合った
指先の違和感も無かったのに
そこから先に進むには二人して何かが足りなかった。

お互いに何が足りないのか分からないまま
「ごめんね」って笑って。
でも人肌だけは寄り合って眠った。

「また会いましょう」

「うん。また会おう。」

連絡先は聞かなかった。
たった一晩お茶を飲んだだけのひと、でも良かったし
また会いたくなったら
あの掲示板でまたあのひとを探せば良い。

あのひとも会いたいと思ってくれたなら
その時までに
足りないものを磨いて今度は連絡先を聞こう。


#また会いましょう

11/13/2023, 11:40:46 AM