えむ

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心地良いから夢でも語ろうと思う

私は何かに追われていて
でも何に追われてるのかが分からなくて
とりあえず必死に逃げて
校舎内を駆け回った
階段を見つけた
本来なら下に降りるのが正解だった
外の方が広くて逃げる場所も多いから
だけど私は上に向かった
駆け上がった先には屋上があった
鍵は開いていた
古いアルミみたいな銀色の取っ手を捻って
広い屋上に出た
だだっ広いコンクリートの塊を蹴って
緑色の編み柵を掴んで登った
でも安全柵は何枚もあって
全部登る頃には息が切れてた
やっと屋上の扉がガチャガチャ鳴って
出てきたのは父親だった
今にも泣きそうで苦しそうにこっちを見てた

心地良いから夢を語ろうと思う

絵を描くのが好きだった
塗り絵とかそういうのじゃなくて
真っ白い紙に女の子を描いて
可愛い服を着せてあげる
漫画家のアシスタントの経験を持つ父親が頭を撫で
私の絵が上手だと褒めてくれた
それから何度も絵を描いた
自由帳は幼稚な絵で埋まった
可愛らしいドレスを沢山描いた
頭を撫でて褒めてくれるのが嬉しくて
いつか描き貯めたドレスを作りたいって思った
綺麗なドレスをデザインして
それを纏って
父親に褒められたいなんて
ドレス作る人になりたいって笑顔で言った
じゃあ将来はデザイナーだねって言われた
だから“デザイナー”が私の夢だった

木漏れ日が綺麗な日だった
目が覚めた日も
嘲笑いながら描き貯めた絵を燃やされた日も
少しだけ涼しい風が木を揺らして
チラチラとシーツを照らしたり
少しだけ涼しい風が木を揺らして
物置でボーッとする自分を照らしたり
綺麗な日だった
でも苦しい日だった

笑顔を作った

『私を産んで良かった?』

その答えを聞かずに父親から離れた

産むんじゃなかったと聞きたくなかったし
産んでよかったとも聞きたくなかった
死んでくれとも言われたくなかったし
生きて欲しいとも言われたくなかった

夢で飛び降りて
夢を諦めた

木漏れ日の跡だけは悲しげに今も夢を照らしてる

多分



お題:木漏れ日の跡
〜あとがき〜
人の夢を嘲笑っちゃいけない
人の好きを嘲笑っちゃいけない
ソレを糧にして飛び越して見返してやる、なんて
考える人間は少ないんです
『夢を諦めた理由にお前のあの言葉もあるよ』
言われないでください
言わせないでください
諦めたのは当人の問題ですけど
その理由に当人以外の名前が出てしまう事ほど
悲しい事は無いと思います
こちらの天気は晴れです
今日も木漏れ日が綺麗だなぁ

11/16/2025, 1:31:36 AM