紺色

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※フィクションです。

久しぶりに会ったおばあちゃんは私の事を忘れていた。

笑顔で話しかけた私に困惑した表情をつくり、丁寧な敬語で私が誰だか聞いてきた。

お母さんの事も覚えていないらしく、おばあちゃんは終始敬語だった。

泣きそうになったけど我慢した。

だって格好悪かったから。

家に帰って、お母さんの顔をみたら急に涙があふれてきた。

「おばあちゃん、忘れちゃったの?」

そう聞いた私にお母さんはただ涙を流した。

それから、私はこうも聞いた。

「お母さんも、忘れちゃうの?」

言葉に出したとたん、また涙があふれ出したのを覚えてる。

怖くて、不安でそれから私はふとした時に涙を流した。

お母さんと笑い合った日。

お母さんに叱られた日。

なんてこと無い些細な会話を。

それでもこんなに楽しい会話を大切な思い出を忘れられることが怖くて。

おばあちゃんみたいに、よそよそしくなっちゃうのが怖くて。

忘れてほしくなくて。

それから少しするとおばあちゃんは天国に帰っていった。

私はまた泣いた。

すごく大きな声で泣いた。

お母さんも、私も、それからお父さんも、友達もみんな天国に行くことを知ってしまったから。

怖かった。

忘れられることの何倍も恐ろしかった。

あれから沢山の時間が流れた。

いつの間にか就職できていて、結婚もしていて、子供もいて。

いつの間にか私が小さかった頃のお母さんの姿を思い出せなくなっていた。

どんな会話をしたかも、何があったかも。

それを自覚したときまた怖くなった。

楽しい思い出があるからこんな思いになるのだろうか。

忘れたくないと思うのだろうか。

泣きたくなるくらいつらい思いをしてまで楽しい思い出を増やすのは正しいのだろうか。

どうせ忘れてしまうのに。

                                記憶

読んでくださりありがとうございました。

同じことばかり繰り返していて読みにくかったですかね?

3/26/2025, 9:34:51 AM